がん幹細胞

身体を構成する臓器や組織は、各臓器・組織ごとに元となる幹細胞(Stem cell)によって機能の維持がなされている。幹細胞は、自分と同じ細胞を作り出す自己複製能、色々な細胞に分化する多分化能という性質を有しており、組織の再生や成長において非常に重要である。
一方で、がんにおいても、正常の幹細胞と同じような性質を有したがん幹細胞(Cancer Stem Cell:CSC)が存在し、がんの増大に関与することが報告されている1)。事実、未分化な細胞から高度に分化した細胞など、様々な「がん細胞」が混在することで複雑な腫瘍組織が構成されている。言い換えれば、腫瘍組織の中に存在するCSCが、様々な性質の「がん細胞」を供給することで階層性を有した腫瘍組織を構成しているのである (がん幹細胞仮説)。また、CSCは「がん細胞」よりも抗ガン剤や放射線に対する強い抵抗性や、がんの転移に重要な役割を果たしていることが報告されており2)3)、既存の抗がん剤や放射線療法によってがんが退縮したにもかかわらず、再発などが起こる原因の1つになっている。
再発・転移のメカニズムには、がん細胞の休眠が関連していると考えられている。これはCSCが癌をつくりだす大本となる細胞であり、細胞分裂がゆっくりであることから、化学療法や放射線療法に対する治療抵抗性をもつと考えられ、細胞の休眠状態との関連が示唆されている。その1つの根拠として、乳がんが肺に再発・転移する際にCocoという分子が存在することでがん細胞が休眠状態から目覚めて、肺に再発腫瘍を形成することが明らかにされた。また、肺に特異的に転移するメカニズムについて、休眠状態にある細胞が目覚めて、転移巣を形成するためには組織特異的な転移抑制シグナルを克服することを求められることがわかっている4)。
しかし、がん幹細胞の研究は発展段階であり、反論する論文も多数見られる。がんの治療において今後の大きな課題と言える。

1) Bonnet D, Dick JE. “Human acute myeloid leukemia is organized as a hierarchy that originates from a primitive hematopoietic cell.” Nature Medicine, Vol.3, 1997, p.p. 730-737.
2) Li F, Tiede B, Massagué J and Kang Y. “Beyond tumorigenesis: cancer stem cells in metastasis.” Cell Research, Vol.17, 2007 p.p. 3-14.
3) Dean M, Fojo T, Bates S. “Tumour stem cells and drug resistance.” Nature Review Cancer. Vol.5, 2005 p.p. 275-284.
4) Hua Gao, Goutam Chakraborty, Ai Ping Lee-Lim, Qianxing Mo, Markus Decker, Alin Vonica, Ronglai Shen, Edi Brogi, Ali H. Brivanlou, and Filippo G. Giancotti. The BMP Inhibitor Coco Reactivates Breast Cancer Cells at Lung Metastatic Sites. Cell. 150:764-779,2012

引用
http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/2012/20120824_01.html
http://www.med.keio.ac.jp/gcoe-stemcell/treatise/2012/20121213_01.html
作成日:2015年09月28日 | NEWS